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南トルコ・アンタルヤの12ヶ月*** 地中海は今日も青し

南トルコ・アンタルヤの12ヶ月*** 地中海は今日も青し

(9)湖畔のドライブ


《ヒッタイトの足跡を訪ねる旅―第1回》 (2003年8月の旅の記録) 

(9)湖畔のドライブ

昼食場所に関しては、しごく簡単に考えていた。
湖畔には必ずレストランがあるだろうと、甘く読んでいたのだ。
キャンピング・スペースを併設したモーテル程度の宿泊施設をいくつか通り過ぎるうち、次第に不安になってきた。
少々疲れたのか、幸いに子供たちは寝てくれている。まだしばらくは大丈夫と慰めながらも、このまま昼食にありつけなかったらどうしよう、いや、それならそれで仕方ないと、不安と諦めの気持ちを抑えながら、車をひた走りに走らせた。
エフラトゥン・プナールへの分かれ道を見逃したり、浜辺への道を迷ったりしたことで、すでに1時間以上のロスをしていたので、飛ばせるところはできるだけ飛ばして、早く目的地に着きたいとそればかり考えていた。

途中、アスファルトの工事のためか、砕石を敷き詰めた荒っぽい道が何キロか続いた。
長い時間揺られ続けたり、大きくバウンドしたりすると、どこかしらネジが緩んで故障につながることの多い我が家のオンボロ・ワゴンにとっては、実に危険な状態である。
「まったく。こんな状態で放っておかないで、さっさとアスファルトを敷いてしまえばいいのに」
トルコで車を走らせると、いつもこんな風に工事中のまま放ったらかしの道や、大きな穴がところどころ開いた道に出くわす。
日本の道路工事と比較しても無駄なのは分かっているが、つい愚痴りたくなるのも、そんな車のハンディキャップがあるから。
とはいえ、まさか帰り道で実際に何かが起こるとは。

小さな町の中を通り過ぎると、道は次第に見晴らしのいいドライブ・コースに変わっていった。
湖岸の切り立った崖の上を切り開いて通した道路らしく、展望はなかなか素晴らしいのだが、そうそう横見をしてはいられない。
車2台がギリギリすれ違えるくらいの狭い道が右に左に小刻みに曲がりくねる九十九折りの道で、カーブの度にクラクションを鳴らさずにはいられないほど、見通しがきかないのだ。
クバダバード・サラユのあるギョルヤカ村は、地図によると26kmほど先。30分で着くだろうという読みは、せいぜい時速30kmしか出せない道路事情によって完全に裏切られることになった。

ベイシェヒル湖は面積651平方kmで、トルコで3番目に大きい湖。
開発の手の及んでいないこの湖は手付かずの自然の宝庫ともいえ、総面積500平方mになる島々の数は全部で33。
島と湖の周囲では数多くの品種に及ぶ植物が生育し、210種類を越す鳥類が観察されるそうで、1993年に湖の西岸は国立公園に認定されている。
なるほど。確かに、都市間を結ぶ国道が設けられ、麦畑がひたすら続く単調な景観の東岸とは大きく異なり、西岸のなんと風光明媚なこと。
小さな入り江には鷺が魚をついばむ姿があり、眼下の岸辺では水を飲む牛の姿があり、両端を岩壁に挟まれた山の中腹では、さきほどの岸に水を飲みに下りるのであろう牛の群れに前方を阻まれ・・・すっかり素朴で変化に富む湖の風景に魅了された私は、九十九折りの道がようやく終わる頃には、時間の遅れも、強いられた緊張もまるきり気にならなくなっていた。

それにしてもお腹がすいた。
もうこうなったら、バッカルでパンと飲み物でも買って、とりあえず空腹を凌ぐしか手がなさそうだ。
小さな村の中を通り過ぎるとき、村の需要に合わせたかの、これまた小さなバッカルを見つけて車を留めた。
パンとトマト、キュウリ、ジュース、クラッカーなどを買い、すぐに車をスタートさせた。
水を置いてなかったのは不思議だったが、すぐに合点がいった。
村の一角に設けられている水飲み場でポリタンクに水を汲んでいる村人を見れば、村の人たちが地下水をそのまま飲料水として使っているだろうことは十分察しがついた。

ハンドルを握る夫にパンの半分、キュウリ、トマト、ジュースを順々に手渡していくと、運転しながらあっという間に平らげてしまった。人に勧められるようなことではないが、一年中車で忙しく移動している夫は、時間のない時は運転しながらホカ弁を平らげることもあるそうで、器用に運転席での食事を済ませてしまった。
小さな村々を通り過ぎ、車を停めて何度か村人に道を確認しながら車を進めるうち、ようやく麦畑の向こう、木々の影に見え隠れしながら、それらしいものが見え始めた。

 つづく

(10)夢の跡



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